『ALWAYS 三丁目の夕日』で昭和30年代を、『永遠の0』で戦中・戦後を描くなど、現代ではない、“時代もの”の作品をいくつか手掛けてきた山崎監督と(株)白組所属のスタッフたち。今回は大正から戦前・戦後までの、より幅広い年代を描くこととなり、時代をどう明確に描き分けるかが一つの課題だった。
これまでの山崎監督作品すべてでVFXディレクターを務めている渋谷紀世子は言う。「もともと時代を描くことに対しては、『ALWAYS 三丁目の夕日』などで培ったノウハウがありました。まずは下調べを行い、各部署で持ち寄ってつきあわせて検討する。わからないことはその道のマニアの方にお聞きするんですが、時代が古ければいろんな説があるので、どの説を芯にするかを決める。あとは、それぞれの場所に対してイメージ写真を見つけられるかどうか。あるのとないのとでは全然違うんです。写真からにじみ出てくるその時代の空気、匂いが感じられる世界が作れたら成功かなと思います」
今回は、VFXが不要なものもふくめ、シチュエーションは60以上。費用対効果も考えると、少ししか映らない場所で詳細なセットを作るわけにはいかず、さまざまな素材、技法をコラージュして一つの場所に見せる工夫が必要となった。
渋谷VFXディレクターいわく「一刀入魂カットの連続」で、場所ごとに担当を決めて、少数精鋭のスタッフで制作していった。本作で、VFXを施したカットは318。これは『ALWAYS三丁目の夕日』の約3倍にあたる。また、今回も多くのマニアの方にご協力いただいた。
もっともコラージュ度の高い場所のひとつが、満州鉄道のシーン。走行中の列車の外観はフルCGで制作。役者の芝居にかかわる部分はフルCGでは描けないため、レンガ造りの建物は静岡で、停車中の列車の一部は京都でそれぞれロケ撮影し、CGで駆動部分や機関車などを追加している。満鉄の外観は大連に行き、現存する旧満鉄本社の建物をスチールで撮影し、素材として使用。さらに、雪素材は北海道にて、白い息の素材は巨大な冷凍庫にて別撮りしており、ワンカットに3、4か所で撮った素材が含まれることも。マット画を駆使しているカットも多い。
アバダンのシーンは、出光興産からお借りした当時の写真をもとに制作、ロケハンに行った際に撮影した写真を使用してリアルに設計していった。実写部分は、勝浦市の駐車場のオープンセットや琵琶湖で撮影。CGやマット画でもかなり描き足している。
山崎監督が、「あまり見たことのない東京大空襲のシーンを作りたい」と語っていた大空襲のシーン。空襲は何度かあったが、今回は1945年5月の空襲の状況を再現することに決定。その際、B-29がどのぐらいの高度でどの方向から、どんな編隊で飛んできたのか。どこに爆弾が落とされたのか、落とされる焼夷弾はどういう爆発をするのか……などをリサーチ。店主が高台から眺めた大空襲の様子は、当時、高台から撮った一枚の写真があり、それをイメージカットとしている。東京の地形データをコンピューターに取り込み、できるかぎりリアルに近い状況を、山崎監督の演出意図とうまく融合させながら制作していった。
焼夷弾についてはなかなか資料が見つからなかったが、最終的に焼夷弾開発時の資料を見つけ、燃え方等を再現。B-29の外装は塗装されておらずジュラルミン製なのでその質感の表現にこだわったほか、夜のシーンなので、ただ暗いだけの画にならないよう、リアリティを損なわない形で演出的な光を作り上げている。
その後の、焼け野原となった東京・銀座のオープニングシーンはフルCGで制作している。東京大空襲のB-29の飛行シーンや、長谷部が乗り込んだ陸軍の百式輸送機が追われる空戦シーンは、『永遠の0』にも参加した栃林秀がプレビズを担当し臨場感あふれるシーンに仕上がった。
播磨乗船所での進水式、アバダン、スンダ海峡、川崎港……とさまざまなシチュエーションで登場する日承丸。出光興産から、実在の「日章丸」に関する多くの資料提供がなされたことで、忠実に再現する取り組みが進められた。
日章丸の図面はなかなか見つからなかったが、進水式のシーンのリサーチのために訪れたジャパン マリンユナイテッド株式会社の子会社であるJMUアムテック(前身は日章丸が建造された播磨造船所)で大切に保存していた当時の図面を提供してもらい、CGで再現することが可能となった。川崎港も資料をもとにほぼそのまま再現。役者が関わる実写部分に関しては、勝浦の駐車場に甲板や桟橋の一部を作ったり、駐車場の傾斜を利用して甲板を見上げている演技を撮ったりとカットに合わせて撮影場所を選んでいる。日章丸の進水式では、何千人もが見守っていたという資料があったため、フォトスキャンで制作したデジタルエキストラも大量に動員。ちなみに東雲とその部下はじめ、復員兵を大量に乗せて日本に帰ってくる復員船神風にも数百人デジタルエキストラが乗っているカットがある。
日承丸の航跡は、ターゲットとなる船を出し、カメラ船で追いかけて撮影した素材を利用。これは、『永遠の0』で空母赤城を再現したときの手法で、当時の経験が応用されている。その他、岸壁は横浜、海素材は三浦半島南端の城ケ島で撮影。播磨乗船所のシーンはミニチュアも駆使している。
門司の旧・国岡商店は、どこまでをセットに、どこからをCGで制作するかの線引きが重要だった。それは『ALWAYS三丁目の夕日』の三丁目の街並みのセットですでに経験していたため、美術部とVFX部で前もって打ち合わせし、二階部分はミニチュアを制作し合成することに。隣に写真館があるのは資料に基づいている。
外観は、市電はフルCG、向かいの建物はミニチュアを撮影。また当時の写真に写っていた山を、同じアングルで現地に赴きスチルで撮影、合成するなど、ここでもできる限りリアリティを重視している。
銀座の国岡商店本社については、資料を基に、一部を実写で撮影し、社屋建物はミニチュア、更にCGとマット画を加えて作成。戦後間もない時期ということで焼け野原の中でぽつんと立っている情景を描いた。